物語 [#565]
静かなアトリエでは
ひとつの物語が描かれている
鉛色のモノクロームの色彩に
一色の赤
その赤は瘡蓋を剥がした時の鮮血の様で
うつろな眼差しの人物にかすかな生を与えている
どうして生きているのか
女性は問い続けている
鳴り止まない心臓の鼓動の速度をあげれば
それは早く止まるのでしょうか
息が切れ
身体から溢れてくるものは
悲しいけれど皆暖かく
だから尚更
その問いは大きくなる
誰かの手を握っては
傷を付けてしまう程に
私の手は荒れていて
いつも血がにじんでいる
かつて
冬の帰り道に
手を繋いだことがあった
暖かいねと
かじかんだ手を包まれながら
生きていてもいいのだと
唐突に感じた
今ではその生に理由を求めている
どうして
どうして
と
見つかる事のない問いを掲げて
走っている
ずっと前から分かっている
そんなことは分かっている
描かれた女性は
赤い涙を流しながら
雪の降る公園に立っている
by isshaissou
| 2013-09-22 10:43
| 一写一想